>> P.21
それでも、これが松尾のスタイルだと尊重してもらえるのは本当にありがたいです」地域を巻き込んで、新しいビジネスをつくる。深海魚に光を当て、水族館用として付加価値をつけるビジネスは、室戸では誰もやってこなかったこと。「この海は、研究者がほとんど来ていない未開の海です。チャレンジしがいがすごくありますね」さらに、室戸は海洋深層水を取水する施設もあり、深海魚にとって〝最高の環境〟を用意できる地の利もある。松尾さんは、自治体の協力で施設内に、自身の水槽を持つ。「多額の資金がかかる水族館構想に、初めは『できひんやろう』という雰囲気でした。今は、行政、地域の人たちみんな、応援してくれています」松尾さんの船名は「海来(みらい)」。自分たちの未来、そして室戸の未来を明るくしたいという想いを込めた。自身の夢を実現するため、笑顔で駆け抜ける松尾さん。その夢を応援することそのものが地域の力になり、室戸の未来をあざやかに変えていくだろう。1.深海にすむ甲殻類「オオグソクムシ」を手にする松尾さん。メディアで紹介し、室戸の名物に仕立てた。2.松尾さんのお子さんが通う佐喜浜小学校。「少人数で、のびのび育ててくれます。子どもたちにとって抜群の環境ですよ」3.飼育しているキンメダイ。松尾さんが使う水槽は、以前勤めていた茨城の水族館などから、「海の豊かさを伝えたい」という好意で譲り受けたもの。「車で運ぶのは大変でしたけどね」4.自身の船を使って、子どもたちを対象にした漁の体験も行っている。小学3年で、室戸で夢を叶えると決める。松尾拓哉さんは幼い頃、熱帯魚を飼って以来、生き物のトリコになった。室戸との出会いは小学3年生。父親の同僚の実家が室戸で民宿をしていた縁で、父親に連れられて高知へ。このときの体験と感覚がその後の松尾さんの人生を決定づける。「漁船に乗せてもらったんですよ。魚が獲れた感動は今でも忘れられません。大阪に持ち帰って飼育して。夢中になりましたね」。このとき、室戸で地域の水族館をつくるという人生の目標までできた。それ以降、夏休み、冬休みを使って一人で室戸へ通う。いろんな魚と対面できる室戸の海にどんどん惹かれていった。地元の高校を卒業して専門学校で学んだ後、茨城、和歌山の水族館で勤務。夢への〝一本道〟を歩みながら、知識と人脈を築いていった。2016年に室戸に移住。まずは、自治体の漁業研修制度を利用して、純粋に漁を学ぶ。「漁師のおっちゃんたちには、俺らが教えたこととは全然違うことやりよるって言われます(笑)。241321