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や魚がおいしい。この幸せはなんだって思いましたね(笑)。空間も心も、解放される感じでした」そしてふたたび、転機が訪れる。あるテレビ番組がきっかけで早紀子さんは、今の夫・拓也さんと出会うことになる。人生の伴侶と農業と。さらなる転機が待つ。中土佐町で有機農業をしているという拓也さんの、人柄と生き方に共感を覚える早紀子さん。「農業に興味はありましたが、女性が一人でできるなんて思ってなかった。有機農業をやっている拓也さんに可能性しか感じませんでした」。農業のチャンスと人生の伴侶を得て今、海と山に囲まれた集落で暮らし、働く。日の出とともに起き、自分たちで作った野菜を食べ、土の上で汗をかき、夜は早めに消灯する。「田舎暮らしで困ったことないですかってよく聞かれるのだけど、本当になくて。〝普通〟の暮らしが最高に幸せです」地域にどっぷり浸かることでできた人とのつながり、土に触れることで与えられるエネルギー。早紀子さんは、地方暮らし、農仕事の豊かさを日々、噛みしめている。1.ビニールハウス栽培はごく一部。野菜のほとんどを露地栽培で作る。夫の拓也さんは、アメリカで生物学の研究をしていたが、「学生に教えることが苦手で」、祖母の家があった中土佐町で農業を始めた。「夫は栽培部長、私は営業部長です」と早紀子さん。2.収穫したツルムラサキ科の「オカワカメ」。中里自然農園では、珍しい野菜も育てている。3.背よりも高い里芋の葉っぱに囲まれる早紀子さん。「農業は自己責任の仕事。言い訳ができません。以前よりもタフになったと思います」訪れるうちに、高知がどんどん好きになる。中里早紀子さんは、神戸市で生まれ育った。大学卒業後は東京で、ダイビングの本を制作する出版社や、広告代理店に勤務。30歳の頃、東京の友人が高知へUターンしたことで、高知に縁ができた。「食べ物はおいしいし、自然は豊かだし、出会う人、出会う人、本当にいい人ばかり。遊びに行くたびに土地の魅力にどっぷりはまっていきましたね」30代後半、仕事はやりがいに満ちていた。ただ、納期や取引先の事情が優先される仕事に、「日付がわからなくなるほど、多忙でした。10年先の自分が思い描けなかったのです」ならばいっそ、移住してみたい︱。手がかりを求めて、東京・有楽町の「ふるさと回帰支援センター」で、高知県のブースをのぞいた。すると、高知東部地域の観光協会の求人が目にとまり、その週末には面接に。採用が決まり、2016年、安芸市へ移住した。そこは、これまで過ごした都市とは別世界。「自転車で通勤し、自宅からは海まで徒歩1分。野菜12337