藍染の職人
高知県最東端に位置する室戸市は、漁業・備長炭・ジオパークなどで知られるまち。この室戸市で、新たな文化として無農薬の藍葉を使った藍染に挑戦する職人、藍染工房「Riddim Blue」の中内洋介さんにお話を伺いました。
高知県最東端に位置する室戸市は、漁業・備長炭・ジオパークなどで知られるまち。この室戸市で、新たな文化として無農薬の藍葉を使った藍染に挑戦する職人、藍染工房「Riddim Blue」の中内洋介さんにお話を伺いました。
中内さんが、室戸で藍染職人になった経緯を教えてください。
中内:僕はもともと室戸生まれ室戸育ちで、高校卒業後に上京しました。東京では建築業のかたわら、DJや音楽イベント業などをしていました。しばらくして同郷出身の彼女と結婚し、子どもが生まれて。そんな中、2011年に東日本大震災が起こったんです。生まれて初めて生命の危機を感じ、妻と話し合いました。また同じような災害が起こるかもしれない。それでも東京にとどまるべきだろうか?いろいろ相談した結果、家族で室戸に戻ることにしたんです。32歳のときでした。
Uターンで室戸へ。お仕事は決まっていたのでしょうか。
中内:いえ、仕事は室戸に帰ってから探そうと。何かしら建築関連の仕事には就けるだろうと思っていましたが、室戸はおろか高知市内でも仕事がなくて。そこで、どうせなら地元を盛り上げる仕事をしたいと思い、お酒好きだったこともあって、港でBARをはじめることにしたんです。そんなある日、友人に「藍染体験に行かないか」と誘われ、なんとなく興味本位でついていくことにしました。
藍染との出会いはどうでしたか?
中内:体験で藍の染料に手を入れた瞬間、なんともいえない感覚、電気が走ったような衝撃を受けました。藍の染料には多くの微生物がいて、その力を借りて色を染めます。温度は25℃くらいでほんのりあったかい。匂いはアンモニア臭があり苦手な方も多いのですが、僕にとっては心地良い香りでした。そして染め上がりを見たとき、「ケミカルが一切入っていない天然の染料で、こんなに美しく染まるものなのか」と心が震えて。その場で「僕に藍染の技術を教えてください」とお願いしました。
それから本格的に藍染の道に進まれたわけですね。
中内:そうですね。学ぶうちに知ったのですが、藍染の原料になる藍葉は、生産農家が非常に少ないため、希少なものになっていたんです。そこで、自分で藍葉を栽培することにしました。最初は鍬一本で畑を耕し、少しずつ広げていって。染料になる量を収穫できるまでには、およそ3年かかりました。
藍染の主なお仕事内容について教えてください。
中内:現在は「藍染の体験とリメイク」が仕事の中心です。「体験」のほうは、参加された方に自分の染めたいアイテムを持参してもらって、工房で一緒にやってみる感じです。老人ホームやイベント会場に出向くこともありますね。「リメイク」のほうは基本的にオーダー制で、愛着はあるけれど黄ばんで着られなくなってしまった服などを、藍染で新しく甦らせる仕事です。藍の染料は天然由来の成分なので、安心して長く着ることができるんですよ。
なるほど。オーガニックで環境にも優しい成分なんですね。
中内:ええ。染料を洗う作業はすぐ近くの川でやっているんですが、天然由来なので自然環境を汚すことはありません。藍染の仕事ではいつも手が真っ青になってしまうんですが、身体への害はまったくないので安心です。
これからチャレンジしようとしていることは?
中内:「藍食文化」を広げていくことでしょうか。藍は染料だけでなく食材としてもすごい力を持っていて、中国では高麗人参のような薬膳として知られています。このことをヒントに、高知市のコミベーカリーさんと藍を使った「室戸~藍AI~の食パン」をつくりました。高知の海をイメージした青いパンです。青いパンは見た目が独特なので受け入れてもらえるか心配でしたが、商品開発から一緒に関わっていた室戸市職員の濱田さんが、販路拡大のために200ヶ所以上の営業をしてくれたこともあって話題になり、売れ行きは好調です。
藍染職人としてのこだわりを教えてください。
中内:「職人」だなんて、自分はまだまだですが…。僕がしたいのは、マグロ漁で活気に満ちていた頃のように、室戸のまち全体を盛り上げること。そんな思いから、仲間たちと立ち上げたのが室戸の「マグロックフェス」です。若干カオスなイベントですが、全国紙にも「高知県で一番注目のフェス」として紹介されました。また、移住者であり深海漁師の松尾拓哉さんや画家の勇ひとみさんらと共同で企画したのが、室戸名物の深海生物「オオグソクムシ」をモチーフにした藍染のふんどし。これがふるさと納税の返礼品に採用され、大きな話題になりました。こんなふうに、藍染の力を通じて仲間を巻き込みながら、新しい室戸に染められたらと思っています。
最後に。
高知市を含む「れんけいこうち広域都市圏」では、二段階移住を推進するプロモーションとして、2019年に「#田舎暮らしは甘くない」を展開しました。中内さんにとって、田舎暮らしはどんなものでしょうか?
中内:僕はもともと室戸生まれで知り合いもいるし、地域の特性は分かっていたので、あまり参考にならないかもしれませんが。知らない地域への移住となると、やはり仕事があるかないかは重要だと思います。あと、あまり田舎暮らしに理想を抱きすぎると現実とのギャップに悩むことはあるかも。そんなときでも「これはうまくいかなかったけど、次はこうしてみよう」と前向きに考えるほうがいいですよ。そのうちきっと、理解者や仲間になってくれる人が増えてくるはずですから。
中内洋介
高知県室戸市出身、在住。高校卒業後、東京で建築関連の会社に就職。東日本大震災を機にUターン。藍染に出会い、徳島での修行を経て、藍染工房「RiddimBlue」を設立。無農薬の藍葉栽培から染めまでを手がける。ふるさと納税返礼品にもなった藍染のスニーカーやふんどしが話題に。
藍染工房「RiddimBlue」 https://youtu.be/3NNYlrMaPDY
Instagram @riddimblue