組子の職人
組子とは、細く加工した木片を組み合わせ、美しい幾何学模様をつくる木工技術。日本の伝統工芸を担う匠として「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」にも選出された、株式会社土佐組子代表・岩本大輔さんにお話を伺いました。
組子とは、細く加工した木片を組み合わせ、美しい幾何学模様をつくる木工技術。日本の伝統工芸を担う匠として「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」にも選出された、株式会社土佐組子代表・岩本大輔さんにお話を伺いました。
今日はよろしくお願いします。名刺入れがとても素敵ですね。
岩本:ありがとうございます。この名刺入れも組子細工です。高知は組子に必要な木材が豊富で、比較的安く手に入るんですよ。高知は約8割が山なので、当たり前かもしれませんけど。
伝統技術の「組子」との出会いを教えてください。
岩本:もともと実家が建具屋をしていまして。建具の仕事は、高度経済成長期やバブル期などは好調だったんですが、住宅のローコスト化・モダン化が進んで和室をつくらない家が増えたので、需要が減ってきてしまって。これから先、建具だけでやっていけるのかという課題がありました。そんな中で、伝統技術の「組子」を採り入れることで仕事の幅を広げたいという祖父や父の思いもあり、組子技術を習得することになったのが主なきっかけです。
岩本さんは、建具や組子に興味があったのですか?
岩本:いえ、最初はあまり興味がなかったですね。木工業は先が見えていると思っていたので。興味があったのは、ITや医学、宇宙開発といった新しい発見がある分野でした。いずれはそういう仕事に就きたいと思っていましたが、岩本木工の長男として生まれたこともあって、ひとまずは家業を継ぐことにしました。はじめてすぐの頃は嫌になってやめようかと思ったこともありましたが、やり続けるうち、まだ到達していないことや新しい発見がたくさんあることに気づいたんですよ。
新しい発見とはどんなものですか?
岩本:例えば、工業デザイン試作などに使われる「レジン」という樹脂素材があります。このレジンと組子を掛け合わせるとどうなるか。水に弱い組子ではできなかった洗面台などの水回り、エクステリアにまで用途が広がる。丈夫なのでバッグなどの持ち回り品にも使え、ファッションにも進出できる。組子がもつ「採光・通風」などの長所を潰してしまうことにはなりますが、その代わりに新たな分野への道が拓ける。こういったところに、まだまだ成長の余白があるのではと感じました。
伝統工芸を新たな分野へ、というのは簡単ではないですよね。
岩本:そうですね。組子という伝統工芸は完成されたものなので、そこに手を加えるというのは邪道かもしれません。新しいことをしようとすると、周囲から白い目で見られることもありました。ですが、それでもアクションを起こすべきだと思ったんです。伝統工芸だからといって何もしないのではなく、良いと思うことは採り入れて進歩していかないと、業界そのものが衰退してしまうので。だから、自分が「土佐組子」を立ち上げたとき、「伝統と革新」をテーマにしようと決めました。
いま新しく挑戦されていることは?
岩本:組子は細工というくらいなので、小さなものっていうイメージがありますよね?実はそうではなく、大きなものにも活用できるんですよ。というのも、組子のもうひとつの長所は「強度」。木は一本一本だと折れやすいですが、組みあげることによって強度が増すんですね。この点に着目された東京大学の稲山教授にお声がけいただき、共同開発したのが「組子耐力壁(くみこたいりょくへき)」です。組子の壁は、採光や通風に優れ、見た目も美しいまま耐震補強ができるのが特長です。旅館や公共施設など、安全面に加えて和の意匠や開放感が求められる建築物に適しています。
組子職人としてのこだわりを教えてください。
岩本:これは土佐和紙職人の濵田洋直さんの言葉なんですが、「職工と職人は違うものだよ」と。熟練の技術で伝統を支える人を「職工」とするなら、新しいことに挑戦して伝統を切り拓いていく人が「職人」なのかなと思います。どちらが良い悪いではなく、私自身は、組子の世界に新しい風を吹かせられる「職人」をめざしたいと思っています。
今後、組子技術はどうやって受け継いでいくのでしょうか?
岩本:まだ受け継ぐというほどの話ではないですが、今春から1人、新しい方が来てくれることになって。関東の美大出身の女性です。建築家・隈研吾さんと私のコラボレーションを見たことがきっかけで組子に興味をもち、応募してくれたそうです。彼女のように、伝統工芸の新たな一面や可能性を知って、その世界に入りたいと思ってくれる方が出てくるのは嬉しいですね。
最後に。
高知市を含む「れんけいこうち広域都市圏」では、二段階移住を推進するプロモーションとして、2019年に「#田舎暮らしは甘くない」を展開しました。岩本さんにとって、田舎暮らしはどんなものでしょうか?
岩本:その土地に縁もゆかりもない人がいきなり田舎暮らしをするのは、難しいかもしれませんね。考え方も生活環境も都会とは大きく異なるので。田舎で暮らすには、かなりの信念が必要だろうなと思います。逆に言うと、やりたいことが明確で信念さえあれば、それを支えてくれる人たちが高知にはたくさんいると思います。
岩本大輔
高知県高知市出身。高校卒業後、建具製作技能士を取得。宮城県にて伝統的建具技法および組子細工の修行後、2011年に帰郷。2016年株式会社土佐組子設立。伝統工芸品だけではなく、現代の生活に合わせた組子の商品開発を企画、制作、販売。また組子教室やワークショップ等を通じ伝統文化普及活動も行っている。
https://tosakumiko.jp/