昨年の夏、環境省は哺乳類のレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)を見直し、ニホンカワウソを「絶滅危惧種」から「絶滅種」に変更した。
わたしはニホンカワウソを見たことはない。その生きた姿を見ることは、もう難しいのかもしれない。この動物のことを少しでも知ろうと、県内に残るニホンカワウソの標本を調べることにした。
昨年末に、黒潮町役場佐賀支所、四万十市立郷土資料館、四万十市立中筋小学校、中筋川ダム管理庁舎、大月町役場、海のギャラリー(土佐清水市立貝類展示館)、土佐清水市役所、環境省土佐清水自然保護官事務所、土佐清水市立下ノ加江小学校の10カ所で調査を行った。これらの施設では、保管されていた合計11点の標本を確認することができた。
確認した標本は、全て本剥製(ほんはくせい)標本でカビは見られず、皮や毛を食べる害虫も付いていないようであった。しかし、多くが紫外線によって色あせており、ニホンカワウソ本来の体の色は確認できない状態となっていた。
今回調査をしたもの以外で県内に現存するニホンカワウソの標本は、把握している限りでは、県立のいち動物公園の本剥製標本4点と、須崎市教育委員会に保管されている毛皮標本2点(ほかに2点の毛皮標本が保管されているが、産地の記録なし)の、計6点のみと思われる。
これらの標本は、ニホンカワウソが高知県に間違いなく「居た」ということを示す証拠であり、大切に保管されて後世に伝えられることが望まれる。
生物標本は、自然の歴史の証拠である。高知県にはさまざまな自然環境があり、多くの生物を目にすることができる。これまで多くの研究者がこうした高知県の生物について研究・発表し、その証拠となる標本が作られてきた。しかし、県内には生物標本を保管管理できる施設の数が限られている。そのため、多くの貴重な標本が捨てられたり、行方不明になったりしている。
自然の歴史を伝える生物標本を保管管理し、またそれらを使った学習や研究ができる施設が、この高知により多く造られることを願うばかりである。
[こうちミュージアムネットワーク 四国自然史科学研究センター 谷地森秀二(やちもりしゅうじ)]
●四万十市立郷土資料館に保管
されているニホンカワウソの標本