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このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。
歴史万華鏡
執筆「こうちミュージアムネットワーク」の皆さん
第56回 土佐三十絵図
高知市広報「あかるいまち」2017年1月号より
はりまや橋
●はりまや橋

新京橋
●新京橋

市営グランド
●市営グランド
 土佐の古き良き時代を描いた『土佐三十絵図』という版画集がある。これは、坂本義信(一八九五〜一九八八)が昭和七年から十年までの三年間に制作した土佐の名所や風俗を表した木版画で、昭和十年に世に出ると大いにたたえられ注目を浴びた、高知県の版画美術の草分けとも言うべき作品である。
戦後、版画集は高知駐屯のイギリス軍やアメリカ軍の関係者にも注目され、数十部が海を渡っている。昭和二十三年に開催されたアメリカ・クリーブランド万国観光博覧会にも出品され、日米親善に大きな役割を果たしたといわれている。しかし、時代は移り変わり、『土佐三十絵図』は徐々に人々から忘れ去られていった。
 初刷りから四十四年後の昭和五十四年、当時高知アートギャラリーを運営していた北村宗三郎が発行者となり、初刷りからの復元本が発行された。この復元本によって『土佐三十絵図』の全体像がより多くの人々に伝わることになったと思われる。復元本とは言え、初刷りの美しさは十分感じられ、何より高知県下を広く取材した作者・坂本義信の熱意が伝わってくる。
 そして、この時世に出た千部のうちの一部が、香美市立美術館に収蔵されている。これは、平成十六年に香美市で医師をしていた井澤氏の美術コレクションが寄贈された際に付随する資料として収蔵されたと思われる。当時の新聞記事なども一緒にあり、とても興味深いものである。
 わたしはずいぶん前に、高知新聞の紙面でこの版画の一部を目にしたことがあった。「はりまや橋」「新京橋」「市営グランド」などを見たように記憶しているが、とても強い印象を受け、以来忘れられない作品になっていた。それは、わたしが生まれるずっと以前の高知の街の光景にもかかわらず、どこか懐かしく心に染み入るものがあった。ゆったりと時間が流れている時代の穏やかな空気感に浸り、とても癒やされる思いがあったが、平成二十四年に香美市立美術館に勤務することになり、思いがけずこの『土佐三十絵図』に再会することができた。
 ここで紹介する「はりまや橋」「新京橋」「市営グランド」の絵図にはそれぞれに復元本制作の折に付けられた〈作者の解説〉がある。

はりまや橋
 〈高知駅から来る電車に救助網がついているのが時代を物語っている。今の四国銀行の前から北東を見た風景である。〉
 この作品では、はりまや橋交差点が実際より広いように思われる。現在は周りのビルがせまってくるように並んでいるためか、とても狭く感じ、流れた年月の長さを感じる。交差点の中央部にも人の姿が多く見られ、車はまだあまり走っていない。時代の進歩により、今では得ることができなくなった、昔の時代の良さをここに感じることができる。

新京橋
 〈青い灯、赤い灯が水に写って美しかったのは昔の話。(中略)今は川が埋め立てられて、昔の街の面影は全くない。〉
 今は地名としてしか残っていないが、わたしたちがもう見ることのできない川に架かる新京橋のにぎわいが伝わってくるような風景である。人々の影が、もうすぐ始まる夜の街のざわめきを待ちかねているように長く伸びている。どこかでいつか見たような気がする景色でとても懐かしく思う。

市営グランド
 〈すべり山下にあった。当時ここで中学校の相撲大会が催された。今は市営グランドは鏡川の南に移り、ここは会館や人家が立ち並んでいる。〉
 現在のすべり山下は道路が通り、小さなスペースしかない高知城の裏山になっている。この絵図では、広々として明るい日差しの下で子どもたちが遊んでいる様子が好ましく写り、まさに古き良き時代である。

 今から八十年も前の絵図に描かれた高知の姿はどれも美しく新鮮で、いつまでも見ていたい気持ちになる。ここに描かれている人々は、幼いころにわたしの周りにいた親しい人々を思い起こさせる。絵図は、県立美術館や自由民権記念館などに収蔵されていて、時々展示される機会はあるが、もっと多くの人々にこの絵図の楽しさを味わっていただきたいと思う。

こうちミュージアムネットワーク 香美市立美術館 館長 都築 房子
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