●土佐桜 高知県を代表する石材の一つに土佐桜≠ニ呼ばれるものがある。岩石全体が、桜の花びらを思わせるような淡いピンク色を呈することからそう呼ばれている。 土佐桜は、越知町横倉山産の日本最古の4億年前の石灰岩で、サンゴをはじめ三葉虫(さんようちゅう)・直角石(ちょっかくせき)(オウムガイ)など、サンゴ礁に生息していたさまざまな生物の化石が含まれている。これらの化石は、大型化石(肉眼で判別可能な化石)としては日本最古の化石ということになる。ちなみに、真の日本最古の化石は、コノドントと呼ばれる大きさわずか1ミリの微化石で、やはり横倉山産である。 この土佐桜、実ははるか南の赤道付近、しかもオーストラリアの近くにあったサンゴ礁が化石になったもので、サンゴの中にはオーストラリアとの共通種も含まれる。見た目に非常に美しく全国的にも有名で、かつて県内はもとより全国至る所で建築用石材として使用されていた。県内では、旧西武百貨店高知店・高知市民図書館などで内外壁に大々的に使用されていたが、残念ながら両者とも取り壊されてしまった。ただ、後者に使用されていたものは、新図書館「オーテピア」の一部に使用されることになった。一方、県外では、衆議院第一議員会館の故・山原健二郎代議士の執務室の一角に使用されていたが、これも新築のため取り壊されてなくなってしまった。国会議事堂内には全国の名石材が使用されているが、横倉山産の土佐桜はなく、代わりに徳島県産で、土佐桜と岩相の酷似する同時代の石灰岩「曙(あけぼの)」が使用されている。 横倉山産の土佐桜や高知城の大高坂山を構成する地層・岩石は、4億年前低緯度に存在していた超大陸「ゴンドワナ大陸」の一員であった微小大陸の断片で、日本列島の歴史のみならず地球の歴史を知る上で大変重要であり、歴史とロマンを秘めた岩石である。今回その土佐桜が、再利用される形で残ったことは大変喜ばしいことであり、生きた教材として市民に広く活用してもらえることを願いたい。
横倉山自然の森博物館 学芸員 安井 敏夫 |