土佐史研究家 広谷喜十郎

221鏡川を考える(1)-高知市広報「あかるいまち」2002年7月号より-
  県民に広く親しまれ、自然休養林の全国第一号である工石山(1,176メートル)は、鏡川の水源の森の一つである。
 桂井和雄氏の『土佐伝説(二)』には、昔、天狗が住んでいて太鼓をたたく音がふもとまで聞こえたという話を紹介されている。

●上本宮町から見える円錐状のきれいな形をした赤鬼山
上本宮町から見える円錐状のきれいな形をした赤鬼山
 「人間世界には近づかず姿をかくすことも自由自在の不思議な力があり、清浄を愛し、時に非常に強くはげしい感情を表すなどという性格が考えられている。(略)これは元来わたくしたちの古い祖先が、山や野の神の中のある種のものに持った信仰で、山の神だとか山男あるいは山人などというものに持った考え方と同じもの」だとの意義付けをしている。

 また、「土佐山の天狗」の項にも「雨乞いや流行病を治す」という八天狗(はちてんぐ)さま、網川の「海のぞき岩」の上にある神社の不思議な話などいくつかの事例を紹介している。
 この神社に筆者も取材に行ったことがある。北山スカイライン沿いにあり、高知の街が一望でき、太平洋も見渡せる場所であったと、思い出している。

  『土佐海鈔(かいしょう)』の中の「不入山(いらずやま)の怪、天狗、大蛇」の項には「怪異あることにより、人の畏(おそ)れて足ぶみせざる山を入(い)らず山と称し、当州所々有」という書き出しで始まり、工石山も不入山として、この山にまつわる怪奇現象を伝えている。「天狗の所為(しわざ)なるべき」とか「樹も亦(また)老大なれば斯(かか)る怪事もあるなべし」とも述べている。

 こうした全国各地にある天狗伝承に注目した筒井迪夫(みちお)氏は、『山と木と日本人』の中で、「天狗伝説は長く、子から子孫へと語り継がれたのであろう。こわい『天狗』は、森林への不心得者の侵入を絶ち、伐(き)り荒らしから水源の森を守る一種の『守り神』であった」と結論付けている。

  鏡川沿いにあって、円錐状のきれいな形をした赤鬼山(あかぎやま)は、朝倉神社の裏山で、この神社の御神体・神奈備(かんなび・県史跡)として祭られている。この山全体を保護するために、アカマツ、シイなどの樹木を留木(とめぎ)として伐採が禁止されていて、美しい自然林となっている。

 赤鬼という恐ろしげな名前を冠しているのは、人々を寄せ付けないためのものであろうか。この山のふもとに、土佐三大古墳の一つ、朝倉古墳もある。ここが、古代人にとっては「聖なる場所」であったと思われる。


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