土佐史研究家 広谷喜十郎

227(はし)供養祭-高知市広報「あかるいまち」2003年2月号より-
 高知の春の観光シーズンは、はりまや町の高知八幡宮の箸供養祭から幕を明ける。
 毎年2月中旬に、観光関係者、ホテル、飲食業界などから大勢の人々が集まり、1年間に使用されたはしに感謝して無病息災を願い、持参された数十万本のはしを、正方形に組んだ神炉(しんろ)の中に次から次へ投げて手を合わせる。

 ●毎年2月に高知八幡宮で行われる箸供養祭。1年の感謝を込め、はしを投げ入れる。
毎年2月に高知八幡宮で行われる箸供養祭。1年の感謝を込め、はしを投げ入れる。
  一色八郎著『日本人はなぜ箸を使うか』(大月書店)によると、世界には「手食」「箸食」「ナイフ・フォーク・スプーン食」の3つの食法がある。手食が40%、箸食とスプーン食がおのおの30%の割合である。中国、朝鮮半島、日本、台湾、ベトナムなどが箸食であると紹介している。

 日本でも、元は「手食」であったとみえ、三世紀初めの『魏志倭人伝』には「倭人は飲食するときには、木製の高坏(たかつき)を用い、物を手づかみで食べる」という記述がある。

 また、日本最古の文献である『古事記』には、スサノオノミコトが「川上から流れてきた箸」を見て、上流に人間の居住している土地があることを知ったという話を紹介している。『日本書紀』では、大和国の桧原(ひはら)神社近くの箸墓古墳伝承を伝えている。

 そして、古代になるとはしの使用が一般化していくのである。

 昨年3月に、滋賀県の多賀大社を参拝した。神社の由緒書によると、多賀大社の奥山にある杉板峠にさしかかった神様に、土地の古老が「粟のご飯に杉の箸を添えて」差し上げたところ、食事を終えた神様は杉のはしを地面に立てて去った。その後、そのはしが成長して杉の大木になった、という話を伝えている。

 そこで、収穫の秋になると、木の下に食物を供えてお祭りを行っているという。

 このような「箸立杉(はしたてすぎ)」の伝承は全国各地にある。

 高知八幡宮には「箸塚」が建てられている。案内板には「食物と人とを結ぶお箸にも魂が宿るという信仰」に基づくものと書いてあるように、はしを粗末にしてはいけないとの強い願いが込められている。

 日本人が洗練された食事マナーの中で、「菜ばし」「取りばし」「食事ばし」などと使い分けするのもその表れであろうか。


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