土佐史研究家 広谷喜十郎

183 神話のウサギ -高知市広報「あかるいまち」1999年2月号より-
 高知市升形にある出雲神社土佐分詞(ぶんし)には、大国主命(おおくにぬしのみこと)とそれを見上げて立っているかわいらしいウサギの銅像がある。

 『古事記』をひもとくと、この両者の関係について次のような神話が紹介されている。
 ある時、大国主は兄の神々と共に因幡(いなば)国(鳥取県)へ旅行したが、大きな袋を担がされ従者として随行した。先行していた兄神たちが気多(けた)岬まで来たところ、丸裸にされたウサギが泣き悲しんでいたのを見掛けたので、「この海塩を浴み、風の吹くに当たりで、高山の尾の上に伏せ」たがよいとウサギに教えた。
 そのとおりにしたところ、体の皮膚全体にひび割れてしまい、その痛みの苦しさにウサギは泣き伏すばかりであった。そこへ遅れてやってきた大国主が、なぜこんなことになったかを聞いた。
升形にあるウサギの像
升形にあるウサギの像ウサギは、
『私は隠岐(おき)の島に住んでいましたが、対岸に渡りたいと思い、海にいるワニ鮫をだまして、どちらの種族が多いか数調べをしたいので、対岸まで仲間を連れてきて行列させてほしいと提案しました。それを受けてワニ鮫は仲間を連れてきました。
 そこで鮫の背中を数えながら走り抜けていき、ちょうど陸地にたどり着く寸前に「お前たちは私にだまされたのですよ」と言ったところ、それを聞いた鮫は怒り、私を捕らえて体の皮を全部はぎとってしまったのです。
 その折に、兄神たちは海水を浴びたがよいと教えてくれました。そのとおりにしたら、こんな有り様になってしまいました。』
と泣きながら返事をした。

 それを聞いた大国主は「早く河口へ行って清水で体を洗い清め、河口付近に生えている蒲(がま)の穂綿をまき散らして、その上を転び回るがよいでしょう」と指示した。
 その教えのとおりにすると、体が元通りになったという。このウサギが因幡のウサギと呼ばれ、今はウサギ神と一言われていると『古事記』では伝えている。

 これについて宗田一・池田光穂著『医療の神々』の中で「身体を清水で洗い蒲の穂綿に身を包むように教えて救うというもので、大国主命の仁徳福をあらわし、医薬の神として信仰の原点になっている」と述べ、大国主が日本における医療の祖神だというのである。
 ウサギも霊力のある動物だとして鳥取市には、ウサギを神とした白兎(はくと)神社がある。

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