はるの昔ばなし
名村に立ち寄った神様
志なね様の祭神は一言主命〔ひとことぬしのみこと〕という神様です。
この神様は一宮に来る前は、浦の内湾の鳴無〔おとなし〕という猟師部落に祀られていましたが、そこは波の音がやかましゅうて住みにくいと言い出しました。そこで神様は杖〔つえ〕をふりあげて一飛び―。飛んだところが今の一宮で、以後、一言主命は一宮に祀られるようになりました。
一言主命は一宮に住むようになってからも、毎年一回は鳴無へ行きました。ある年、鳴無から帰ってくる途中、時化〔しけ〕にあい、難をさけたところが“名村の鼻”でした。
当時“名村の鼻”には狼〔おおかみ〕が群れをなしていました。山のかげ木のかげで雨風をよけている間に、一行のお供が狼に食われだしました。一人が近くの百姓の家へ松明〔たいまつ〕を貰〔もら〕いに走りました。最初の家では何度も頼みましたが断られ、松明を貰うことが出来ませんでした。
“名村の鼻”には人家も少なく、二軒目の家で漸〔ようや〕く松明を貰うことが出来ましたが、一行のところへ帰った時には供の者は幾人も狼に食われていました。
松明のおかげで助かった一言主命は、そのあくる年から鳴無へ行くことをやめました。最初の松明をくれなかった家の子孫は、志なね様の祭から帰ると、きまって病気になったそうです。
鳴無のお祭と志なね様のお祭とは同じ日に行われています。また祭の晩の夜空をこがず松明の明るさも両方が全く同じだと言われています。
志なね様…高知市一宮〔いっく〕に所在する土佐神社のことです。
浦の内湾…うらのうちわん。高知県須崎市にある湾です。
名村の鼻…なむらのはな。「名村」は春野町東諸木〔ひがしもろぎ〕にある地名です。海に向かって山の尾根が突き出ているところがあり、これを「名村の鼻」といいます。