地域に馴染む
仕事の関係で高知に赴いてすぐ、1点の新聞記事が目に留まった。
「『よさこい祭り』参加移住者募る」。
人生で初めて足を踏み入れた高知。地域に馴染むには高知の皆さんが大切にしている「よさこい踊り」を体験するのが1番だと思い、高知市役所踊り子隊の門をたたいた。
初めての練習。誰も知らない中に飛び込んでいく不安もあったが、すぐに解消された。「新人さん?」と隊員に優しく声を掛けられ、輪に入っていった。伝統の正調踊り。鳴子の持ち方から入り、腕の高さや足運びなど細かい部分まで、丁寧に教わった。振り付けを覚えれば同じ動きの繰り返し。
「意外にできる」。
歯切れのいい鳴子の音に浸りながら体を動かしていると「職場のほかに、自分の居場所ができた」と心が安らいだ。
しかし、仕事が立て込み、練習間隔が空くと、動きが頭から離れていった。祭り直前、久しぶりに練習に参加すると手足はバラバラで鳴子の持ち方さえ忘れている。見かねたベテラン隊員に手を引かれ、片隅で個人レッスン。「若いんだから元気よく!」そう励まされて列に戻っても「和を乱してないか?」と後ろめたさを感じ、冷や汗が噴き出した。
遊び心!??
胸に「高知市」と刻まれた法被に袖を通すと気が引き締まった。道路脇には地方車がずらりと並び、大きな音楽に合わせて色鮮やかな衣装をたなびかせる他のチームの踊り子に見とれていると「俺たちは遊び心で客を楽しませなあかんよ」とベテラン隊員から声を掛けられた。振り付け通りに踊るので精一杯の自分にとって何のことだか。「遊び心」の意味を理解できなかった。
演舞場で曲が流れると、客との距離の近さに驚いた。たくさんの観客が自分を見ている。緊張から顔がこわばる中、横に目をやると、観客に近づいていき「一緒に踊ろう」と語りかけるように鳴子を鳴らす隊員の姿が目に映った。「まだ照れが見えるで。客と心を通わせんと」。正調踊りは高知の人なら誰もが知っている。だからこそ、観客の心を1つにする楽しみ方がある。「遊び心」の意味がようやく分かった。
最後のチャンス
帯屋町演舞場でこの日最後の踊り。「よさこい!」と声を張りあげた。観客からは遠い内側の列で踊っていると「外側行き!」と先輩が配置を譲ってくれた。「最後のチャンス」。自分の両親と同世代の夫婦に鳴子を向けると「よさこい、よさこい」と一緒に声を出してくれた。スマホで演技を撮影する同世代の女性客を見つけると踊りをアピール。友人らと笑いながら大はしゃぎしている姿を見ると、自分も元気をもらった気がした。
高知が大好きに
困っている人がいたら、声を掛けてくれる。初対面でも明るい笑顔で一緒に楽しんでくれる。高知の皆さんの温かみに触れ、高知が大好きになった。「やっと高知人の仲間入りができたかな?」とひと安心していると、「最後よかったで。来年もまた踊ろうや」と隊員たちに声を掛けられ、やる気満々で答えた。
「もちろんです」。