本文
必需品から芸術品まで しなやかに形づくる竹製品
普通の木材と比べて成長が早く、地域のあちこちに生えているため、竹は古くから人々にとって身近な素材だった。多くの家庭で農業や漁業をしながら竹製品を作っては自分たちで使ったり、売ったりして生活の足しにしていたという。そうして竹細工の技術は親から子へ、子から孫へと継承されてきた。脱穀の時に余分なものを取り除く「箕」、魚などを干すためのざる「丸てしま」 等々、仕事に必要なものから、鳥かご、花器、竹とんぼなど、日常を彩るものまで、様々な種類の竹製品がある。時代は移り、竹製品に変わる安価なものも多数登場しているが、安心で抗菌、 鮮度保持能力などにも優れた効能の高い素材として、今、その価値が見つめ直されている。
竹細工の歴史
少なくとも文政6(1823)年には、黒潮町で竹細工を生業にしていた職人がいたということが記録に残っている。その後、明治になると、主に桑かごやエビラなど、農作業で使うものを作っていたという。明治の終わりになると漁業が盛んになり、竹細工に従事するのは高齢者が中心となった。
昭和42(1967)年には大方竹工作業場が完成し、大方町竹製品組合も発足。多くの技術を持った職人たちが製品を作ってきた。しかし、安価な輸入品との競合や生産者の高齢化などにより、現在、技を受け継ぎ、製品を販売しているのは黒潮町ではただ1人となっている。
ひと編みひと編み、心を込めて
午前中は漁船に乗り、海へ出る澳本さん。一息つき、午後になると、おもむろに竹細工にとりかかる。御年85歳。小学6年の頃から家の仕事を手伝うようにな り、その経歴は70年以上になる。 山で伐ってきた竹を割り、小刀でそぎ、編み上げていく。使うのは真竹、破竹など。よどむことのない手先の動き。まるで魔法をかけられたかのように、美しい網目の作品ができあがっていく。竹の種類によって柔らかさも違い、仕上げる商品によって編み方も違う。厚さを均一にそろえ、完成させるまでには、1日半ほどかかるという。お客さんの中にはあまりの美しさに「使うのがもったいない」と、飾り用とあわせて2つ購入した人も。伝統の技とアイデアが融合した逸品だ。
用途によって道具を変えながらの作業。
「一人前になるのに10年かかる」と言われる。
澳本 信男さん
本業の合間の作業ですが、お客さんに喜んでもらえたら、うれしくてついたくさん作ってしまいます。真新しい青々とした竹も、時間が経って色の変わった竹も両方の良さがあります。ぜひ長く使って、経年変化を楽しんでくれたらうれしいです。
連絡先 黒潮町本庁産業推進室
黒潮町入野5893
Tel.0880-43-2113
販売場所 道の駅ビオスおおがた
黒潮町浮鞭953-1
Tel.0880-43-3113 他
熟練の技が光る編み目。 鳥かごは「こばん」と呼び、昔はメジロなどを飼うのに
編み方によって「そうけ」「さつま」「てしま」などと呼ばれる。 使っていたそう。飴色の変化も美しい。