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土佐の日常に生きる、 気品漂う丈夫な器
その容貌は、艶やかで優雅さと気品溢れる凛々しさを持つ。 表面のザラ地は独特の個性となるだけでなく、指紋やキズもつきにくい。他の漆器のような面倒な手入れも必要ない。比較的安価であり普段使いしやすい。にもかかわらず、土佐古代塗の制作は入念を極める。塗り始めから完成までは全32工程、約30日以上も要する。生地固めから始まり、ほとんどの工程が塗っては乾燥という作業の繰り返しで、相当な根気を要する。「このリズムが体に入るまでは大変でした」と池田さんも苦笑する。
漆が固まるためには、酸素と温度と湿度が必要である。15度〜25度、湿度は50%〜80%の組み合わせがいる。漆塗りの作業は季節や気候と向き合わなければならない。手間暇をかけ美しく施された器は、深い色合いで凛々しく輝いている。
土佐古代塗の歴史
土佐古代塗は、明治初期、土佐藩佐川城主深尾家の塗師であった種田豊水により創められた。豊水は山口県出身で尾張の一国斉に高盛絵の漆芸技術を学び、その技法が今に受け継がれている。その弟子の小栗正気や山脇信三によって成熟。さらに岡崎亀太郎や渡辺善介達により工夫改良が加えられ現在の技法が確立した。昭和初期、 株式会社が設立され、品質の統一化とさらなる堅牢さを求めて表面にザラ地をつけるようになる。戦後、プラスチックの台頭に押され衰退の一途を辿るなか、1973年、高知県工業試験場において池田八郎氏が古代塗を習得。これを機に「土佐古代塗」と称する。現在、息子の池田泰一氏が唯一の後継者と して活躍。
今の暮らしに寄り添う商品も開発
風格漂う日本家屋の母屋の横に工房はある。作業スペースは二つ。まわりにはロクロとたくさんのヘラ、仕上がりを待つ箸が置かれていた。現在、土佐古代塗唯一の後継者である池田泰一さんは、大学卒業後この道に入った。 「土佐古代塗を救えるのは自分しかいないし、自分の存在意義も見いだせる」との思いがあったと語る。その様子は、穏やかかつ理知に満ちた表現力を持つ。商品に実際に触れてみると、優雅さやおだやかさを感じる。これも作家の人となりが背景にあってのことと推察したい。伝統の盆や重箱はもちろん最近は箸なども人気。内原野焼とコラボした酒器など新たな魅力も発信している。「土佐の匠」、「現代の名工」を受賞。銘は季久。
何層にも塗り重ねられた器は、奥深い艶を放ち、
堂々たるオーラを放つ。
季久 池田 泰一さん
一つずつ心を込めて作っておりま す。手作りゆえに、全く同じものはございません。 作り手の思いや歴史なども含めて楽 しんで頂ければ幸いです。
連絡先・販売場所 美禄堂
高知市長浜706
Tel.088-842-6337
販売場所 高知大丸
高知市帯屋町1-6-1
Tel.088-822-5111(代)
宝飾・美術HIROMATSU
高知市はりまや町1-2-2
Tel.088-873-6668
漆を塗るのに欠かせないヘラも職人の手作り。 古代塗は、触っても指紋がつかず扱いやすい。
他の器のような手入れは不要で洗剤で洗っても良い。