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ダムと土砂収支
No.17 ダムと土砂収支
ほぼ週刊鏡川 2010年4月28日
昨日(平成22年4月27日)は大雨が降りました。ピーク時には毎秒245立方メートルの水を鏡ダムは放水していました。245トンの水と言っても想像がつかないかもしれませんが,1秒間に2リットルのペットボトル122,500本分の水が流れていたということです(余計ピンと来ないか?)。ゲート3門とも放流する鏡ダムはすごい迫力です!!
当然,上流も下流も大増水していました。
ちなみに水の少ないときはこんな感じです。
下の写真は縄手町のトリム公園前です。濁流がすぐそこまで来ています。堰(せき)はどこにあるかさえ分かりません。
水の少ないときはこんな感じです。
次は高知市鏡庁舎前の鏡川と的渕川の合流点,いわゆる「川口のつきあい」と呼ばれるところです。右側が鏡川です。
通常時は,的渕川の水の方がきれいで,鏡ダムからの水の方が少し濁っていますが,上の写真では逆転しています。的渕川は土砂を含んだ茶色い濁流ですが,鏡ダムからの水は澄んでいます。ダムの上流も濁流のはずですが,どういうことだろう・・・。
ダム湖の水は澄んでいます。
鏡ダム上流約1.5km地点にある砂瀬橋地点では濁流です。
上流から流れてきた土砂は,ダム湖で流れが緩やかになるとすぐに沈殿してしまうようです。つまり,ダムが土砂をせき止めているのが良く分かります。
昭和の時代から指摘されていたことですが,鏡川下流部では,土砂収支(土砂の堆積と流出のバランス)が取れていません。土砂の供給よりも流出が多いため,川底には,水生昆虫の生息や魚類の産卵に適した適度な砂利が年々少なくなり,礫(大きな石)が多くなっています。
ダムだけでなく,下流部に堰が5つも連続して,流れが緩やかになっているのも土砂供給が不足する原因です。昨日のような相当な出水がないと,上流から流されてきた砂利は堰の貯水部を越えて下流に行くことはできないのです。
水生昆虫のすみかがなくなり,その数が減ってくると,水生昆虫をえさにする魚類も減ってきます。魚類が減ると,魚類をえさにする鳥類や大型魚類も減ってきます。豊かな生態系を維持するには,生態ピラミッドの底辺である藻類(コケ)や水生昆虫に目を向けることが重要です。ピラミッドの底辺が大きくなると,ピラミッドは大きく,高くなります。底辺が崩れると,ピラミッドの上部はいとも簡単に崩れてしまいます。
豊かな生態系のためには,土砂収支を取る必要があると思います。
先進県では,ダム湖から浚渫した土砂をダムの下流部に置き,出水があると土砂が少しづつ下流に流れるようにした「土砂還元」を行っている河川もあります。土砂還元の歴史はまだ浅く,そのメリット・デメリットが全て出揃ったわけではないですが,今後の持続可能なダム運用と生態系の維持のためには,どんどん実験して知見を深めていく必要があるのではないでしょうか。
人間も生態ピラミッドの一部なのですから。