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歴史万華鏡コラム 2019年12月号
高知市広報「あかるいまち」より
身近にある土地の記憶を感じるモノ
藁工(わらこう)ミュージアムの近くには、「一文橋(いちもんばし)」という橋が架かっている。江ノ口川に架かるその橋は、平成七年三月に完成。高速道路の高知インターから高知市街地へとつながる市道下知三十三号線の一部で、平成九年四月一日に開通した。以前の橋より道幅は三倍ほど広くなり、一文橋を含む下知三十三号線は幹線道路としてなくてはならない存在である。
さて、この一文橋。ずっとその昔は橋を渡るために一文銭が必要だったそうだ。橋のたもとにいるおばあさん(おじいさんという言い伝えもある)に銭一文を支払い渡ったことから「一文橋」と名付けられたと言われている。そのため、橋の欄干には一文銭があしらわれ、また、橋のたもとにある信号機にもさりげなくこの装飾が施されており、思わず探したり数えたりしたくなってしまう。
一文銭のデザインは、架け替えに伴い取り壊された以前の一文橋にも取り入れられていた。その橋の欄干の一部だけは、一文橋西側にある一文橋公園に今も遺されている。
公園の片隅にある欄干。質実剛健、シンプルなデザインが潔く、かっこいい。また、かつての一文橋の南側のたもとにあったお地蔵様も一文橋公園近くに移設され、今現在もこの地域に暮らす人々を見守り続けてくれている。
一文橋も、一文橋公園にある欄干の一部も、お地蔵様も、決して史跡にはならないだろう。しかし、この地域の歴史を刻み伝えていく大切なモノたちである。それは、現在は藁工ミュージアムとなっている建物の「藁工倉庫」も同様だ。
気に留めない風景が、知ることにより見え方が変わってくる。こういったモノはどの地域にも、あなたの身近にもたくさんあるだろう。ぜひ探してみてほしい。
藁工ミュージアム 学芸スタッフ 松本 志帆子
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。