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歴史万華鏡コラム 2020年8月号
高知市広報「あかるいまち」より
『皆山集』に記録された勤王志士の履歴
高知県の歴史を調べる際に欠かせない史料集の一つに、『皆山集』全十巻(高知県立図書館発行)がある。原本は、明治時代、高知県庁で高知県史料などの編さんに従事していた松野尾章行が集録した史料集で、史料の分野も宗教・歴史・社会・民俗・政治・経済・地理・産業・自然・文芸と多岐にわたる。
本書を用いて土佐の勤王志士を調べる際、第五巻 歴史(四)篇所収の「維新功績者調べ書」(以下、「調べ書」)が大いに参考になる。そこには、土佐勤王党員のほかにも、桐間蔵人、小南五郎右衛門、牧野群馬(小笠原唯八)、由比猪内など、「勤王」運動に与した上士層も含めた百五十七名の生没年月日、身分、主な活動が記録されている。また、幕末土佐藩に関する文献に時々出てくる人物でも、「調べ書」しか詳細が書かれていない者もいる。
「調べ書」のもととなる勤王志士の履歴調査は、勤王志士顕彰活動を徹底するために、明治二十四(一八九一)年の選考にもれた志士たちの調査を全国の知事に命じた、同二十六(一八九三)年六月十日付の内務省訓令に基づく。
当時の高知県知事石田英吉は、県内の郡市長に志士の調査を命じるとともに、新聞社にも告知して、遺族たちからの情報提供を求めた。さらに、同年七月二十日、松野尾に土佐の志士の調査と伝記の編集を命じた。
松野尾は、田中光顕、土方直行(佐川町出身の志士)、島村笑児(武市半平太妻・冨の弟。高陽新報社主)、伊藤修(戊辰戦争従軍の伊藤和兌の養子。高知市長)らの協力を得て、志士たちの遺族や生存者に聞きとり調査を行った。その成果は、「維新功績者履歴草稿」、「海南殉難士略伝」(以上、国立国会図書館蔵)、「皆山集」(高知県立図書館蔵)として現存している。
石田の決断と松野尾による調査および記録化がなければ、土佐の勤王志士の存在も、土佐藩の勤王運動も人々の記憶に一体どれだけ残っただろうか。
中岡慎太郎館 豊田 満広
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。