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歴史万華鏡コラム 2021年2月号

歴史万華鏡
高知市広報「あかるいまち」より

遍路道と牧野富太郎博士

2月号写真
●五台山に生育するビロードムラサキ。八月ごろに開花する。

高知市中心部から南東方向に位置する五台山の山頂付近に、日本の植物分類学の基礎を築いた一人である牧野富太郎博士の業績を顕彰するために設立された高知県立牧野植物園がある。五台山には、四国八十八箇所霊場 第三十一番札所の竹林寺があり、参詣するための道が複数あり、多くのお遍路さんや観光客が訪れる。

五台山は、かつては浦戸湾内に浮かぶ島で、周囲からの土砂の流入や干拓などによって、明治初期ごろ陸続きになったといわれている。今のように陸続きになっていなかった江戸時代ごろは、高知城下から舟で渡り五台山の南側から登ったり、一宮方面から徒歩と舟で来て五台山の北側から登ったりしていたとのこと。現在でも、これらの道の多くは残り、時折、北側から登って来られたお遍路さんと園内で出会うことがある。こうした昔からの道だけでなく、今は自家用車やバスが走る道も整備されている。

牧野博士は何度か五台山へ植物採集に訪れている。五台山で採集した植物の中には、その当時、学名がついていなかったものがあった。

博士は明治十七(一八八四)年に五台山などで採集した標本を用いて、大正三(一九一四)年にビロードムラサキの学名を発表した。植物図鑑には日本語の和名と世界共通の学名の二つの名前が掲載されている。学名は命名規約にもとづいてつけられる。学名をつける際に用いられた標本をタイプ標本といい、その標本が採集された場所をタイプ産地といわれる。そのため、五台山はビロードムラサキのタイプ産地となる。残念ながら、山のどのあたりで採集されたかは不明だが、五台山の南側から登る道沿いでビロードムラサキを目にすることができる。古くから続く道をたどり、博士に思いをはせつつ、植物たちを観察しながら散策をしてはいかがだろうか。

高知県立牧野植物園研究員 瀬尾 明弘

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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。