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歴史万華鏡コラム 2021年7月号
高知市広報「あかるいまち」より
『南路志(なんろし)』について
『南路志』は、高知城下の豪商・美濃屋の武藤致和(よしかず)と平道(ひらみち)の父子が中心となって編纂(へんさん)した史料集で、文化十二(1815)年に完成した。原本は全百二十巻から成る大著であり、この事業のために美濃屋は財を傾けることになったといわれる。高知県立図書館では過去に『南路志』の翻刻(ほんこく)本(全十巻)を刊行したが、今回それを基にして『南路志』のデジタル化を行った。この『南路志』の内容について、翻刻本の構成に即しながら簡単に紹介したい。
『南路志』の内容は大きく四つに分けられる。
まず、「闔国(こうこく)」の部である。翻刻本では第一巻から第四巻にあたる。
第一巻は土佐国の沿革・概要を中核とした内容になっており、土佐一條氏など中世以前の支配層に関する記述や、戦、各地の城跡のことなどが記されている。第二巻・第三巻は、各村のあらましを記した地誌となっている。村によって内容に精粗(せいそ)はあるが、村ごとの石高や寺社、旧跡などを調べることができる、「闔国」の中心といえる部分である。第四巻は産物や怪奇談、詩文集や人物に関する記述などを収めている。産物にはカツオや木材といった、今も高知を支えている産品の名も見える。
続く第五巻から第七巻は「年譜(ねんぷ)」の部と、それを補完する「附録(ふろく)」の部になる。ここには長宗我部氏の代から第十代藩主・山内豊策(とよかず)の代までのさまざまな出来事や逸話などが記されている。また、山内家に登用された侍の名前なども出てくるので、先祖調査などにも役立つかもしれない。
第八巻から第十巻は「拾遺(しゅうい)」の部であり、資料編にあたる。「土佐国蠧簡集(とさのくにとかんしゅう)」「土佐国蠧簡集拾遺」といった史料集、土佐国の寺院について詳細に記された「寺院録(じいんろく)」、桂井素庵(かつらいそあん)の「万日帳」をはじめとした家記などの貴重な資料が多数収録されている。
このようにさまざまな記録を網羅した『南路志』は、特に江戸時代以前にさかのぼって高知のことを調べようとする際に非常に役立つ。解読に少し難しいところがあるかもしれないが、今回のデジタル化では本文をフリーワード検索できるようにもしているので、活用していただければ幸いである。
高知県立図書館 司書 中嶋 浩平
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。