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歴史万華鏡コラム 2022年02月号
高知市広報「あかるいまち」より
新種「トサシミズサンショウウオ」
動物園人として働き始めた平成11年、私はいきなりライオンやトラ、白いマントヒヒなどがいる猛獣班へ配属された。もちろん身近な昆虫や金魚、カメや犬を飼うなど、いつでも飼育係になれる幼少期の環境で育ったわけだが、嗅いだことも無い獣臭とさまざまな鳴き声のする薄暗い獣舎に入った初体験は一生忘れることはない。
そんな新人時代、先輩から「県西部に変わったサンショウウオがいるらしい」と言われ興味本位で向かった場所は、高知市から遠く離れた土佐清水市。青い海とジョン万次郎が生まれた漁師町にサンショウウオ!?
近くには高知県立足摺海洋館SATOUMIがある森で、その謎のサンショウウオと私は初めて出会った。手の平の上でキラキラと輝くつぶらな瞳と目が合った気がした。
この優美な生き物は体長13センチほど。昭和47年、地元の小学生が下校途中、ふと道端の水たまりから変わった卵塊を発見。西日本に数多く分布するカスミサンショウウオの近縁種、四国と九州が陸続きだった時代の生き証人オオイタサンショウウオだろうと話題になったそうである。
平成13年から高知市の業務として、現地で環境整備と生態調査を開始。ただ、時が経つにつれ、高知県産と大分県産との生態および形態的特徴に違和感を覚え始めた。この何気ない違和感から、平成30年、研究者仲間たちの協力のもとアメリカの両生類爬虫類の学術誌に投稿した論文が認められ、世界でも唯一無二、高知県土佐清水市のみに生息する新種「トサシミズサンショウウオ」の歴史が幕開けしたのである。
令和4年、アニマルランドの保全活動は22年目の春を迎える。土佐清水市の森でひっそりと暮らす“小さな命”。発見当初から長年大切に守り、私たちの保全活動にも協力してくださっている地元の皆さまに深く感謝いたします。
道草は楽しい究極の自然教育。豊かな好奇心を育みます。
わんぱーくこうちアニマルランド 学芸員 吉川 貴臣
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。