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歴史万華鏡コラム 2023年05月号

歴史万華鏡
高知市広報「あかるいまち」より

明治三十年 高知の営み

5月号写真
●『高知県商工家案内』に掲載された井上和之助の広告

高知市民図書館が所蔵している貴重資料の中に『高知県商工家案内』という本がある。これは明治30(1897)年に高知の商業の発達を目的として書かれたものである。前半は「土佐商業地誌」と称した高知県の輸出入など商業に関する統計が、後半は「商工家之部」として県内実業家の広告を集めたもので構成されている。

この資料において特に注目すべきは後半部分で、県内全市町村分ではないものの、780ページにわたっておよそ930もの広告が掲載されている。それらには業種・商品・店の場所・店主名または店名などが書かれており、同時期の資料としては類を見ないほどの情報量と質を有している。広告からは、地域ごとの商業の特色や、当時はやっていた商品、和紙やサンゴといった伝統産業などさまざまな風物が見て取れる。

一つ例を挙げると、「酒類醸造 銘酒白菊 高岡郡佐川町 井上和之助」という内容の広告がある。この井上という人物は、佐川の岸屋という店で番頭をしていたことで知られている。岸屋と言えば現在放映中の『らんまん』でモデルとなった牧野富太郎の実家であり、酒造業や小売業などを古くから営んでいた。富太郎は明治24(1891)年に家財整理のため帰高した際、井上に店を譲っており、この本が出版された当時には井上家が店を継いでいたことが分かる。併せて本資料の類書である明治42(1909)年発行の『土佐名鑑』を見ると、「生糸(ならびに)諸紙雑産商 佐川町 井上和之助」として名前が載っており、12年の間に酒造業を廃業したことが分かる。

このように、本資料を用いて類書と見比べることで、事業の変遷や流行の業種、人物調べにも活用できる。

現在、当館の収蔵品検索データベースにおいて、『高知県商工家案内』のタイトルで本資料の画像を公開している。当時の実業家やその商いを見て明治期高知県の営みを懐古するとともに、現在そして未来の産業について考えてみてはどうだろうか。

オーテピア高知図書館 司書 南 昇平

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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。