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歴史万華鏡コラム 2023年10月号
高知市広報「あかるいまち」より
牧野博士と桂浜
日本のどこにどんな植物があるのかを解明しようとし、その中で多くの新種を発表した牧野富太郎博士。黎明期にあった日本の植物分類学の礎を築いた一人だ。
最も素晴らしい功績は、膨大な植物知識を一般大衆に還元し、各自が自力で植物を調べられるよう3206種類が掲載された植物図鑑を作ったことだと私は考えている。60代頃より教育普及に注力した牧野博士は、植物学的なことから雑学まで、ユーモアを交えた丁寧な解説が人気を博し、沖縄を除く全国各地からの招きに応じて植物観察会などの講師を務めた。
現在、私は県内各地で、牧野博士や植物を観光に活かすため自治体を支援する仕事をしている。高知市から桂浜のガイド養成とパンフレット作成支援依頼を受けたことをきっかけに、昭和9年8月1日に牧野博士が講師を務めた桂浜での植物採集会(※)の詳細を調べた。城東中学校(現・高知追手前高等学校)での講演会の後、市街地からバスで若宮八幡宮(長浜)に赴き、そこから炎天下の砂浜や松林を歩いて5キロメートル先の桂浜までの行程だった。参加者は150人超で、牧野博士の周囲には常に人だかりができ、何時間もかかってようやく桂浜の灯台下に到着、最後は昭和三年に建立されたばかりの坂本龍馬像前に集合して、当時あった巡行船で戻ったという。あの龍馬像を、牧野博士も見ていたと知り、なんだか嬉しくなった。道中、現在は高知県絶滅となっているカワラサイコを観察していたり、イグサを収穫する農家(高知県はかつて一大生産地だった)に出会っていたりして、参加者の記録からは環境の変化だけでなく、今とは違う当時の様子を垣間見ることができた。
現在、桂浜ではガイドさんたちが、当時牧野博士たちが観察した植物を紹介してくれている。機会があればぜひ、牧野博士との植物調査を追体験しに、桂浜に散策に行かれてはいかがだろうか。
※現在、植物採取には、地権者の許可および絶滅危惧種への配慮が必要です。
高知県立牧野植物園 植物研究課 藤井 聖子
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。