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歴史万華鏡コラム 2024年07月号

歴史万華鏡
高知市広報「あかるいまち」より

やなせたかしとホオノキ

7月号写真
●やなせたかし朴ノ木公園の詩碑

NHK連続テレビ小説『らんまん』の放送終了後間もない中で、やなせたかしと(のぶ)夫人がモデルとなる『あんぱん』が2025年度前期の同番組で制作決定した。『アンパンマンの遺書』(岩波書店、1995年)によると、『らんまん』でにぎわった高知県立牧野植物園の園長を務めた山脇哲臣(てっしん)氏はやなせの遠い親戚で、母校の一年後輩であり、やなせたかし記念館のそばにある「香北の自然公園」の植物の選定にも関わっていることから、不思議な縁を感じている。牧野植物園の発展と植物の研究に尽力した山脇氏であるが、実はやなせにも特別な思い入れのある植物があったことはご存じだろうか。それは、牧野植物園にも植えられているモクレン科のホオノキである。

ホオノキは軟らかい木質のため、高級木材ではなくげたの歯やまな板などの日用品に使用される。やなせはそんなホオノキに、相手を傷つけず控えめな印象を感じ取り、自身のシャイな性格、叙情的な作風、そして詩人・エッセイスト・脚本家・舞台美術など多方面で活躍していたものの、本業の漫画家としては代表作がなく、長い間売れなかった人生と重ね合わせて親近感を抱いていた。晩年、やなせは高知新聞の連載「オイドル絵っせい」でその思いを記したほか、ホオノキの妖精が登場する絵本『ガンバリルおじさんとホオちゃん』(小学館、2008年)を描き、県内の小学校に寄贈している。

また、やなせの父の生家の地名は香北町在所(ざいしょ)(ほお)ノ木(のき)(現在の香美市香北町朴ノ木)で、やなせ自身も父の死後、一時期そこに暮らしていた。その後、母の再婚、伯父夫婦による引き取りなどで高知市や南国市に転居したやなせであったが、朴ノ木は祖父母の家として、変わらずなじみの深い場所であり続けた。

現在、朴ノ木の柳瀬家跡地は、晩年のやなせの希望により墓地公園として整備され、自身と暢夫人が眠る「やなせたかし(ほお)ノ木(のき)公園」となっている。公園の墓碑や詩碑からは、やなせの郷愁(きょうしゅう)の念やホオノキに対する思いを感じることができるので、ぜひ訪れてみてほしい。

香美市立やなせたかし記念館 学芸員 澤村 明信(あきのぶ)

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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。