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歴史万華鏡コラム 2020年7月号
高知市広報「あかるいまち」より
やなせたかしとアンパンマン車両
ことしの十月で、JR四国の「アンパンマン列車」は二十周年を迎える。これを記念し、今夏には新しいデザインの列車デビューが発表されるなど、「アンパンマン列車」の人気が再燃しそうな予感である。
現在ではJR四国の観光列車の顔ともいうべき車両となった「アンパンマン列車」であるが、初登場は二○○○年十月十四日であった。岡山~高知・中村間を走るJR土讃線の特急「南風」号に登場し、高知駅での出発式当日は、やなせたかしも一日駅長として参列している。これまでの特急「南風」とは全く異なるカラフルな車両の登場に、集まった子どもたちは目を輝かせていた。
アンパンマンの描かれた車両は、特急「南風」号の「アンパンマン列車」だけではない。それからさかのぼる事、約一年。一九九九年八月九日、もう一つのやなせたかしデザインの車両が高知市内を走り始めていた。高知の方にはお馴染み、とさでん交通の路面電車である。当日は、まんが甲子園の審査委員長として帰省していたやなせを招き、桟橋通の旧・土電車庫で完成セレモニーと出発式が行われ、やなせ本人が車体の扉近くに直接サインもしている。
父との死別、母の再婚によって、南国市の後免駅近くで開業医をしていた伯父の家で、小学二年から旧制中学を卒業するまで過ごしたやなせにとって、路面電車は子どもの頃から日常風景の一部であった。少年の頃から抱いていた「電車に絵を描いてみたい」というやなせ自身の希望をかなえ、この日、アンパンマンミュージアムPR電車は誕生した。
当初は、一年間の限定で走り始めたPR電車も昨年二十年を迎えた。二○一二年の秋に、当館の新収蔵庫と同デザインで作られたもう一車両の電車も加わり、アンパンマンたちが描かれたPR電車が高知市内を走る姿も定番の風景となった。やなせが亡くなって、ことしで丸七年。同氏の代表作であり、子どものような存在であるアンパンマンたちを乗せた電車は、これからも同氏の思いとともに高知の街を走り抜けていく。
香美市立やなせたかし記念館 学芸員 仙波 美由記
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※このページは、高知市広報「あかるいまち」に掲載されている「歴史万華鏡」のコーナーを再掲したものです。